るいは智を呼ぶ


「おはようございます、和久津さま。キスしてよろしいですか?」
「だめ」

これが三日前。 平穏無事な朝、同級生とのたわいもない日常。
「いくわよ、いいわね、気合いを入れて!」
「物事は精神論より現実主義で!」

その三日後。 燃えるビルの屋上からダイブして、都市伝説の黒いライダーに追いかけられた。
運命はいつだって問答無用にやってくる。自分たちをお構いなしに自分勝手に巡っていく。
皆元るいは、家なし子だった。
花城花鶏は、奪われたものを取り返すためにやってきた。
鳴滝こよりは、消えた婚約者を探していた。
茅場茜子は、父の不始末のとばっちりを受けていた。
白鞘伊代は、ひとりぼっちだった。
そして。猫かぶりの優等生、和久津智は断末魔だった。
智には痣がある。宿命のような運命のような、烙印めいた小さな痣だ。
その痣は、きっと昔から、ろくでもない先行きを予告していたのだろう。
死んだ母から手紙が届いて以来、地雷原に迷い込んだように引きも切らずトラブルが押しかける。
宿命のように運命のように、涙目の智が出会った少女たちの身体には、智と同じ形の痣があった。
言語道断な呪われた青春と対峙するために、一心でもなく同体でもない、六人の少女が同盟を結ぶ。
「つまり、これは同盟だ。破られない契約、裏切られない誓約、あるいは互いを縛る制約でもある。
 僕たちは口約束をかわす、指切りをする、サインを交換し、血判状に徴を押して、黒い羊皮紙に血のインクでしたためる」
「一人で戦えないから力を合わせる。一本の矢が折れるなら五本六本と束ねてしまえばいい。
 利害の一致だ。利用の関係だ。気に入らないところに目をつぶり、相手の秀でている部分の力を借りる。
 誰かの失敗をフォローして、自分の勝ち得たものを分け与える」
「誰かのためじゃなく自分のために、自身のために」
「僕たちはひとつの〝群れ〟になる。群れはお互いを守るためのものなんだ」
いつか来る平穏無事な日々を夢見て、全身全霊で疾走するでこぼこだらけの少女たちは、いつしか固い絆で結ばれていく。
けれど。 和久津智は仲間にもいえない秘密を隠し持っていた。
彼女は「男の子」だったのだ――。


≪シナリオ・プレイ感≫
 呪われた世界をやっつけるため同盟を結ぶ少女達の物語。
 ライターは日野亘氏、衆堂ジョオ氏の2名。

 作品全体でのテーマとして扱われるのは、それまで何の関わりもなく、突然に『同盟』を結ぶことになった少女(+α)達の築いていく『友情』や『絆』でしょうか。
 それは単なる馴れ合いの類ではなく、些細な主義主張の食い違いや疑心暗鬼、どうしようもない世界からの圧力により、簡単に失われてしまうような、そんな関係。友達といえど他人なのだから、それは全く不思議じゃないこと。
 けれど、裏切られる度、ひび割れる度、失いそうになる度に、主人公はそれを壊さないように奔走して、引きちぎれそうになる絆を繫ぎとめて。
 そうして、弱かった絆がだんだんと強固なものへと、ただの他人だった関係がかけがえのない『仲間』であり、『友達』へと変わっていく様子が、上手く描写出来ていたように思えました。
 ただ上辺だけを扱った軽いものでなく、そういった人としての負の側面を絡め、それを乗り越えた上での友情を描こうとしている点で非常に好感が持てるシナリオでした。

 とりあえず、テキストの癖が結構強めなので、そこで人を選ぶところはありますね。表現がやたら小難しくて冗長というか。そういう面が受け付けない、という話もちらほらとは見かけますし。
 ですけど、オープニングムービーを越えた辺りからはこなれたというか、普通に読みやすくなったように思えましたね。それを越えて以降、ラストまで一気に読み進めましたが、さほど苦に感じたことはなかったですし、それで投げ出すのはもったいないかな、と。

 あと、舞台は現代日本がベースとはなっていますけど、主人公、ヒロインそれぞれに特殊な『才能』とその代償としての『呪い』を持っているという設定のため、普通の現代モノと思っていると戸惑う部分はあるかとは思いますね。
 『才能』は人といくらか比べて秀でている、といったものではなく特殊能力のような類ですし、『呪い』についても同じく現実的な問題に対しての比喩ではなくその字面通りに『呪い』であってオカルト要素が強め。
 それらが話の中心となってくるので、そういうのが好きでない方には注意した方が。




 作品の構成は最初は選択肢なしでるいシナリオで固定されており、それをクリアすることで選択肢がオープンして花鶏、伊代、こよりのシナリオに行けるようになります。で、それら全てを攻略するとラスト、トゥルーエンドへと至る茜子シナリオが攻略出来るようになるという作り。
 各ヒロインそれぞれのシナリオで断片的に物語の謎が提示されていき、最後のシナリオでそれら散りばめられたパズルのピース全てを重ね合わせて謎を明らかにするといったタイプとなっています。

 それまで抱いていた謎が一気に氷解していく下りは見ていて引き込まれるものではありましたが、ただ、その代価として作品全体を通しての前半辺りではとっつきにくいと感じてしまうところはありましたね。
 物語を読み進め、少しづつ情報が開示されていく度にそれまで抱いていた謎が確かな形を持っていき、理解出来るようになっていくんですが、そのためにまだ十分に情報の揃っていない序盤ではそういった謎がおぼろげにしかわからなくて戸惑ってしまうことが少々。キャラの持つ知識とユーザーの持つ知識とが乖離している、というか。
 例を挙げると、『呪い』により禁じられた行為を犯してしまったことで命の危険に晒される場面が劇中何度かあるんですが、その時点では情報がないために『それ』がどんな存在なのかが分からず、ヒロイン達が恐れおののく様を見せられてもいまいちプレイヤー側としては実感が伴わないというか、離れたところからそれを見てる気分になったり。

 そのこともあって、中途半端にやると消化不良になり、最大限楽しむためにはトゥルーシナリオまで全てやりきることが絶対条件となってきますが、↑でも書いたようにオープニング以降はテンポよく読めますし、引き込んでくる内容ですので、それほどボーダーは高くないと思います。
 そうして全ての謎が解けた末に待っているトゥルーエンドは何から何まで上手くいったハッピーエンドというわけではなかったですけど、決して後に残った余韻は悪いものではなかったですね。
 失ったものも少なくなかったけれど、同盟関係ももうなくなってしまったけれど、結ばれた絆は失われることなくこれからも続いていく、そんな未来が想像出来て。
 ああこれでこのバカ騒ぎも見納めになるのかと思うと物寂しいという感情も沸いてきましたけど、この物語に触れられたことがただ素直に良かったと、そう思いながらプレイを終えられましたね。



 他で気になったところとして個人的には、ヒロイン視点から見た日常なんかがあれば良かったと思いますね。というよりは、ヒロインの抱える『孤独』についての描写が欲しかったところ。キャラ紹介なんかでは仲間といない時のヒロインについて述べられたりしてますが、劇中では基本的に主人公を含め、仲間と一緒にいるところだけで、本当の意味で一人ぼっちのところはあまり描写されないんですよね。地の文や会話から匂わせてはきますけど、誰一人『仲間』のいない、それまで過ごしてきた当たり前だったはずの『日常』は。
 同じ才能と呪いを持った仲間と出会い、友達として絆を結んでいくのを強調するような意味でも、そういったヒロイン毎の日常も欲しかったです。

≪グラフィック≫
 原画家はさえき北都氏。
 CGは全109枚、差分は2~5枚ほど。

 全体を通して高いクオリティが安定して保たれており、崩れるとかいったことも全く無く、立ち絵、CGともに可愛らしく描けていたと思いますね。
 えちぃシーンのについても悪くないですし、特に問題になるようなことはなかったんじゃないかと。

≪サウンド・ボイス≫
 ボーカル曲は真里歌嬢でOP『絆』、Riryka嬢でED『宝物』の2曲。
 どちらの曲も、作品のテーマとマッチしていて非常に良い曲だったと思います。フルバージョンに聴き惚れてます。
 とりあえず、ラストで『絆』が挿入歌として流れますが、その時くらいはフルバージョンで流して欲しかったですね、1番の歌詞のループでなく。

 BGMは全35曲。
 アップテンポな曲調、ほのぼのとした曲調、落ち着いた曲調、沈んだ曲調と、全体的にまんべんなく取り揃えられている感じですね。質についても概ね水準以上といった出来じゃないかと。特に好きだと思ったのは『譲れないもの』、『必ず』、『僕達の絆』あたりでしょうか。

 ボイスの方も特に問題ないですね。キャラにも合っていますし、気合入ってます。
 しかし、芹園みや嬢の演技は良かったですねー。キャラに合わせての声質の変え方のレベルが高く、良い仕事しています。

≪システム≫
 フルインストールで1.31G 、ディスクレス起動可。
 クイックセーブ、ロードが無いのが若干不満ではありましたが、あとはそう使いづらいと思うようなことはなかったですね。次の選択肢へのスキップなどもあるため2周目以降面倒に感じるようなこともなかったですし。

≪えちぃ≫
 シーン回想は全9シーン。内訳としてはるい:3、花鶏:2、こより:2、茜子:1、伊代:1。

 シチュとしては全シーン双方同意の和姦ですね。ヒロインから迫られてっていうのもちょびっとだけありますが基本的に。
 プレイ内容としてはキス、愛撫、フェラ、クンニ、パイズリ、手コキ、各種体位とオーソドックスなところを一通り、といったところ。
 質、尺についてはそれなりでしょうか。シナリオ重視の作品としてはあまり問題ではありませんけど、そう長くはないですね。

 個人的には、もうちょっとシーン数があっても良かったと思いますね。るいについてはまあ妥当な線だと思いますが、他のヒロインでは1、2シーンのみしかないですし。
 好きあうようになってお互いがお互いを求めて、っていうのは自然なことでしょうし、るいシナリオなんかだとお互いに溺れまくってヤりまくってるような描写もありますし、るい以外でもそういったのがあってもと。

≪総評≫
 作品全体を通して、『友情』というテーマを上手く描いた良作でしたね。プレイ出来て良かったですし、楽しかったです。
 癖のかなり強い作品なのは確かではありましたけど、それで敬遠してプレイしないのはもったいない作品だったと思いますね。

 08/07/15


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